芸術の扱う人間の根本問題の一つについて
精神に苦しみをもたらす悪循環を断つこと、それをいかに精神の超克などの表現により実現するか、は芸術の扱う人間の根本問題の一つである。
人間の要素
人間を精神、身体、環境、社会関係の4要素から成っている存在だとする。身体的問題は、病気や怪我は医療・福祉、食糧事情は農業・食品産業、衣服は繊維・衣料産業が担っている。環境は、健康な空気は排煙などの工業に対する環境政策、住居は建築業、ネット環境はIT産業が担っている。人間の身体・環境に関わる問題は、学問分野で言えば、工学、物理学、医学、農学、などが扱う。
精神は、心理学、精神医学、人文学が扱い、社会関係は、社会科学、経済学、政治学、法学という社会科学が扱う。
4要素いずれにも、根本問題は存在するが、このように、産業分野、学問分野によりその解決に関して役割分担がされている。
人間の精神
人間の精神は、身体、環境、社会関係という他の要素から独立に存在しているのではない。特に他の人間との間で作られる社会関係、人間関係は、個人の持つ精神現象を生む重大側面である。身体・環境も、それらが悪ければ、精神に大きな影響を及ぼす。
芸術は、人間の精神の周囲で生み出されるものである。精神は、社会関係から常に影響を受ける。その中で、精神は、金銭苦、身体苦、人間関係、近親者の死去、失恋、失愛、無視、ストレス、絶望、被害、囚われ、欲望、執着、執念、思い込み、育児放棄、虐待、虐め、無謀、自暴自棄、といったことにより、苦しみを持つ。
それらから離れようとして悪循環し、悪循環が家族や世代を超えて受け継がれてしまっていることが人間には多々ある。心理学で苦しみを抱える個人に関し「生活史」を遡り、家族、親族の性格や心理も見て、悪循環の根を発見し、それを断とうとするのは、このような悪循環の世代間継承が存在するからである。
現代社会では、社会で起きた問題の原因や責任が個人に帰せられることが多い。しかし、人間は、個人の精神のみで存在しているのではない。その精神は、身体、環境、社会関係の強い影響下にある。そのため、何か問題が起こったときは、その原因を個人の精神のみではなく、身体、環境、社会関係のそれぞれに遡って考えなければならない。これは人間に関し考察する上での重要な観点である。
芸術と人間の精神
芸術が関わるのは、直接的には、このような人間の精神である。これは、芸術が芸術家の精神現象から生み出され、作品が物理的なものでも、それは鑑賞者に精神現象を生む、という意味においてである。そして、この精神は、社会関係、身体、環境の影響を受けながら存在する。
その芸術の目的の一つは、このような精神に苦しみをもたらす悪循環を断つことである。悪循環を断つことが、人間の根本問題の一つである。
そして、悪循環を断つために、精神の超克、精神の核、精神の深さ、を追求し、その表現が試みられてきたのが、芸術の歴史の一側面である。
人間の精神が、身体、環境、社会関係との関わりで存在していることから、「身体、環境、社会関係」が直結している社会や生活のデザインをどのようなものにするかは、人間の悪循環を断つといった問題の解決策を考える上で、もう一つの観点となるものである。